最近スーツ着てますか?…まちのクリーニング店の廃業が止まらない 相次ぐ逆風、10年で半減「不景気に強いはずが…」

 2024/05/07 11:23
谷口ドライの作業場。季節の変わり目ということもあり慌ただしかった=4月24日、鹿児島市易居町
谷口ドライの作業場。季節の変わり目ということもあり慌ただしかった=4月24日、鹿児島市易居町
 鹿児島県内で廃業するクリーニング店が後を絶たない。受け取りなどの取次店も含めた店舗数は、この10年間で半減した。背景には、事業主の高齢化や後継者不足をはじめ、新型コロナウイルス禍による生活スタイルの変化や高価な専用機材といった要因が複雑に絡み合う。業務に欠かせない石油系製品も高止まりが続き、業界への逆風は強い。

 4月下旬、鹿児島市易居町の谷口ドライでは、「ぷしゅー」とプレス機から出る蒸気が立ちこめていた。家族3世代で切り盛りする創業70年の老舗。季節の変わり目とあって冬物衣類が多く積まれ、慌ただしい雰囲気だった。

 「周りのお店はほとんどやめた。最近は新規のお客さまが流れてくる」と話すのは、店主の谷口良秀さん(88)。同世代の同業者は、後継者がいないと廃業したという。

 同店は4年前にドライ機1台を買い替えたが、1000万円を優に超えた。これまでなら部品交換で済んでいたが、古い型で部品がなく選択肢がなかった。「ガス代や資材も高止まりが続いている。機械の故障を機にやめる人も多かっただろう」と同業者を思いやった。

 県生活衛生課によると、2022年度の取次店を含むクリーニング店舗数は957店で、12年度の1928店から半減。02年度は2265店だったため、直近10年間の廃業が際立つ。厚生労働省のホームページでは、全国のクリーニング店経営者の平均年齢は23年度、60歳超が6割を占める。

 ただ激減した要因は、それだけではないようだ。

 同市武岡1丁目のオーサコドライの大迫正明社長(55)は「コロナ下で式典や冠婚葬祭がなくなり、需要が落ち込んだこともあるのでは」と推測する。リモートワークでスーツ着用も減ったとみられ、同店ではコロナ下での売り上げは半分に落ち込み、パートも雇えないほど苦しんだ。

 総務省の家計調査では、クリーニングやコインランドリーを含む1世帯(2人以上)当たりの洗濯代の年間平均支出額は、23年が4711円と10年前から約3割減少した。一方で、洗濯用洗剤や電気洗濯機の支出額は3~4割増えた。

 県クリーニング生活衛生同業組合の村山孝一郎理事長(60)は「昔は衣料品が高く、クリーニングして長く使うのが主流。誰もがスーツを身に着け不景気に強い業界と言われていたのに」と懐かしむ。

 最近は安い衣料品が浸透し、クールビズなどのカジュアルスタイルも増えた。洗濯機や洗剤の性能向上も無関係ではないと、村山理事長はみる。「組合としても業界をアピールするが新規参入は数えるほど。このままでは『洗いたくても洗えない』というクリーニング難民も出てくるだろう」