「公害の原点」水俣病 公式確認から68年たつ今も全面解決は遠いまま…認定審査待ちは全国に1700人超、患者の高齢化も進む
2024/04/30 07:20
「公害の原点」といわれる水俣病は5月1日、公式確認から68年となる。鹿児島、熊本両県の認定患者は2284人で、うち鹿児島は493人。両県で審査を待つ認定申請者は1400人に上り、全国で1700人超が司法に解決を求めている。患者の高齢化が進む中、全面解決は見通せない。
熊本県水俣市などは1日、犠牲者慰霊式を開催する。患者団体の水俣病互助会は、水俣病の全ての犠牲者をまつる同市袋の乙女塚で慰霊祭を開く。
水俣病特別措置法に基づく救済対象外となった鹿児島、熊本両県などの144人が国と熊本県、原因企業に損害賠償を求めた「熊本訴訟」で、今年3月の熊本地裁判決は鹿児島側9人を含む25人の罹患(りかん)を認めたが、損害賠償請求権が消滅する20年の除斥期間が過ぎたとして原告全員の請求を棄却。原告143人が福岡高裁に控訴した。
同種の訴訟は全国4地裁で起こされ、大阪地裁は昨年9月、原告全員を水俣病と認め国などに賠償を命じた。今月18日、新潟地裁は原告47人中26人の罹患を認め、原因企業に賠償を求めた。東京地裁でも係争中。
水俣病認定を巡っては、鹿児島県に申請し審査待ちとなっているのは3月末時点で1069人。熊本県の審査待ちは331人(4月15日時点)。
原因企業チッソによると、認定患者の9割はすでに亡くなった。3月末時点の生存者は両県合わせて229人(前年同期比17人減)で、平均年齢は80.4歳。うち鹿児島県在住者は59人で平均年齢79.9歳。
■「除斥期間」巡り割れる司法判断
水俣病特別措置法に基づく救済の対象外となった住民らが国と原因企業に損害賠償を求めた近畿、熊本、新潟の3訴訟は、損害賠償請求権が20年で消滅する「除斥期間」適用の可否について司法判断が割れた。熊本地裁判決だけが、これまでの水俣病訴訟で初めて除斥期間が経過していると判断し、訴えを退けた。
争点の一つとなった20年の除斥期間は改正前民法の724条に規定。1989年の最高裁判決で「被害者側の認識のいかんを問わず」不法行為の発生から20年で請求権が消滅するという判断が示された。その後、専門家などから「厳しすぎる」という批判が出て、89年判断を修正するような判決が相次いだ。
旧優生保護法により不妊手術を強制された人が国に賠償を求めた訴訟では、除斥期間の適用は「著しく正義に反する」などとして国に賠償を命じる高裁判決が今年1月までに計6件言い渡された。
水俣病訴訟の弁護団は判例などに基づき、「国が症状や地域、年代によって患者を限定し、被害者は自らを水俣病と認識できなかった」「親族同士でさえ気軽に話せず賠償請求できる状態ではなかった」と主張。今月18日の新潟地裁判決は原告の置かれた境遇を踏まえ、適用は正義に反すると結論づけた。
弁護団は2004年の筑豊じん肺訴訟の最高裁判決などを挙げ、もし除斥が適用されるとしても、被害者が「水俣病と診断を受けた日を起算点とするべきで、20年の除斥期間は経過していない」とも訴える。昨年9月の近畿訴訟の判決は、起算点について民間医師が診断した時だと認めた。
今年3月の熊本地裁判決は原告の訴えをいずれも退けた。除斥の立証を担う高峰真弁護士(福岡県久留米市)は「水俣病の裁判の長い歴史の中で、除斥を理由に訴えが退けられたのは初めてだった」と指摘。「控訴審では、当時は声を上げることができなかった原告一人一人の状況についてより丁寧に立証したい」と話した。
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