知的障害者同士の結婚。「互いに傷つく。本人たちのため」と反対した知人たちを、2人は子煩悩ぶりで驚かせる
2024/05/05 11:02
コウちゃんと手をつなぐカズさんとマミさん=鹿児島市
カズさんとマミさんは、2人とも軽度の知的障害がある。長男のコウちゃん(3)はかけがえのない「宝物」。鹿児島市の麦の芽福祉会が運営する入居施設で、周囲の助けを借りながら日々を過ごしている。
保育園から自宅に戻ると、マミさんは園のかばんに入った荷物を手際良く片付けながら声をかける。「はい、ないないして」。コウちゃんは後を追い、駆け回る。カズさんは「あちこち触るようになって、危ない時は止めるんです」と優しく見つめた。
コウちゃんは8カ月で、「ママ」と言葉を発した。1歳になるとテレビを見ながら、まねして歌ったり踊ったりするように。できることは少しずつ増えている。わが子の成長を語る2人は笑顔が絶えない。
ここまで曲折を経てきた。カズさんは友人間のトラブルに巻き込まれがちで、非行に至ることもあった。マミさんは、周囲と意思疎通がうまくいかないときにパニックを起こした。「社会の障害への理解や支援が足りないがために起こる問題だった」。麦の芽福祉会の川瀬加代子さん(62)は、長年2人を見守る。
2人は12年ほど前に麦の芽で出会い、交際を始めた。「いずれ互いに傷つく。本人たちのため」と親や知人など周りの人たちのほとんどが結婚に反対していた。マミさんは「結婚はできないんだね、と思っていた」。
それでも麦の芽の施設で同居を始めた。ともに朝早く起き、弁当を作り、就労継続支援事業所へ仕事に行く。掃除や洗濯の家事もこなした。力を合わせて生活する姿に、次第に2人を応援する人が増えた。6年の交際の末、2015年に結婚した。
5年後、コウちゃんが生まれた。金銭を巡り自身の母とトラブルになっていたカズさんは、ある日、母親の元に出向いた。「大事な家族ができた。昔の僕じゃない。信じてほしい」。面と向かって訴え、和解した。妊娠と出産を経たマミさんも、次第にパニック発作が起こらなくなった。2人の子煩悩ぶりは周囲を驚かせている。
不安は尽きない。保育園のこと、体調のこと、悩んだら職場の先輩や施設のスタッフに相談する。コウちゃんは麦の芽の系列保育園に通う。組織が一体となって関わり、支える。カズさんとマミさんは「結婚して、家族になれた。みんながコウちゃんをかわいがってくれて、うれしい」と感謝する。
麦の芽の中でも、障害がある人同士の結婚は珍しい。カズさんとマミさんはみんなの憧れの存在だ。川瀬さんは「誰もが当たり前に、好きと言えて、一緒に暮らせる。結婚したい人もしたくない人も、自分の選択が尊重されるようになるといい」と話す。
(連載「みんなの子育て 鹿児島で支え合う」より)
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