有事の現実感は乏しいまま…軍拡の前線に漂う「何となく容認」の空気 平和を守るには―

 2023/05/27 21:20
サバイバルゲームを楽しむ参加者=3日、鹿児島市
サバイバルゲームを楽しむ参加者=3日、鹿児島市
 資材置き場の跡地に「パンパンパン」と発射音が響く。「今のは(機関銃の)M60だ」「茂みに1人いる」。5月上旬、鹿児島市郊外のサバイバルゲーム場。中学生から大人まで25人がエアガンを手に“戦闘”を楽しんでいた。

 こだわりの迷彩服や装備など、ミリタリーの知識は一般より明るい。とはいえ、多くは遊び感覚に近く、安全保障政策への関心には濃淡がある。ゲーム歴5年の男性(22)=同市=は「銃が好きでエアガンを集めているけど、リアルな戦闘には興味がない」と話す。

 施設を管理する男性(48)は「弾が当たったら自ら申告するのがルール。相手の存在を否定する実際の戦闘とは別物で、想像もつかない」。

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 ロシアのウクライナ侵攻を受け、ワイドショーではロケット砲システム「ハイマース」、携帯型対戦車ミサイル「ジャベリン」といった軍事用語が飛び交う。交流サイト(SNS)には銃撃戦などの衝撃的な映像もあふれる。

 南日本新聞が4月、県民約1000人から回答を得た意識調査では、西之表市馬毛島の自衛隊基地整備や長射程ミサイルの県内配備について、いずれも賛成が半数以上を占め、反対を上回った。基地整備に賛成の理由は「国防に必要」が最も多かった。

 「台湾有事となったらどうなるか。守る力はそれなりに必要では」。街には、そうした声が少なくない。

 広がる不安とは裏腹に、有事への現実感はつかみにくい。自衛隊や米軍は、奄美などで「ハイマース」を展開するほか、日米の隊員で実際に組み合う格闘訓練なども重ねる。

 一方、自治体が主体となる住民避難は机上の訓練にとどまる。部隊がどのように動き、空港・港湾を「軍民」でどう使い分けるか、基本的な方向性さえ示されていない。複数の職員は「具体を詰めるほど、無理があると感じる」と口をそろえる。

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 勝利するが多大な犠牲を払う-。米国の保守系シンクタンクは1月、台湾有事のシミュレーション結果を公表。大半のシナリオで数十隻の艦艇と数百機の航空機、数万人の隊員を失うと予測した。

 勝利には日本の参戦が前提とされている。昨年末に決めた防衛費倍増、反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有といった安保政策の大転換は、こうした文脈の上にある。だが、戦後78年、一人の戦死者も出さなかった日本、鹿児島で有事のリアルは遠いままだ。

 軍拡か軍縮かといった議論の二極化も進む中、市井には「何となく容認」の空気が漂う。平和を守るには何が必要か。いや応なしに「前線化」が進む鹿児島で問われている。

(連載「転換期の空気 安保激変@かごしま最終8回目より」)