【衆院選鹿児島 論点を問う】「攻めの農政」の裏で生産基盤はぜい弱化 土地も担い手もやせ細る

 2021/10/28 07:35
 10月下旬、いちき串木野市にある農業法人「ゼロプラス」の畑では、丸々と大きく育ったレタスが秋風に吹かれていた。11月から収穫期を迎え、コンビニエンスストアなどに出荷されていく。

 経営する松田健さん(42)は2013年に長野県の農業法人を辞め、同市大里に2ヘクタールの畑を借りて独立した。8年間で面積は18ヘクタールに広がり、パートを含む10人の従業員が年間600トンの野菜づくりにいそしむ。

 社員として働く10~40代の5人のうち、3人は市外出身者だ。中には「農業を学びたい」と大阪からやってきた青年もいる。農場近くにある市来農芸高校の卒業生も受け入れた。

 モットーは「もうかる農業」。松田さんは「体力勝負の面もある農業では、若い力が必要になる」と指摘し、「今はどの業界も人手が足りない状態。農業が『就職先の一つ』として選ばれる魅力的な産業にならなければ、人材確保は難しくなる」と言葉を継いだ。

■右肩下がり

 国は輸出促進など「攻めの農政」を掲げて農業の成長産業化を図るが、土台となる生産基盤は必ずしも盤石とはいえない。全国2位の農業産出額を誇る鹿児島でも農家数は年々減少。20年2月現在の県内総農家数は4万8000戸余りで、5年前に比べ24%減った。減少率は全国(19%)を上回る。

 鹿児島の農業生産規模を維持するには、認定農業者や集落営農組織といった「担い手」を1万ほど確保しなければならない。今のところ、担い手数は1万782(19年度末)と必要数をクリアしているものの、新規就農者は12年度以降、ほぼ一貫して減り続けている。20年度は過去10年で最少の229人にとどまった。

 後継者不足の影響は、特に国土保全、水源かん養といった農村の多面的機能を守る集落営農で深刻化しており、その数は直近5年間で3分の2に急減した。県北部の中山間地で水稲をつくる50代男性は「農地を維持するだけで精いっぱい。農業の楽しさを感じる余裕などない」と明かす。

 現在、県内で活躍する認定農業者は60代が中心。10年後、20年後を考えると、新規就農者の減少は大きな懸念材料といっていい。

■細る農地

 農家だけでなく、農地そのものも縮んでいる。

 20年農林業センサスによると、県内の経営耕地面積は約7万ヘクタールで、15年の前回調査から7000ヘクタール余りが失われた。国は14年度に農地バンク制度を導入し、「10年間で農地の8割を担い手に集める」とぶち上げたが、20年度の集積率は6割に満たない。中山間地が多く、条件が不利な県内は4割前半で足踏みが続く。

 集積が滞れば、耕作放棄地が生まれる。その面積は県内で1万7000ヘクタール超。いったん荒れた農地を再生するのは簡単ではない。

 ある農業法人は新規参入時に放棄地をあっせんされ、「一時は倒産を覚悟したほど多額のコストと労力がかかった」という。ゼロプラスの松田さんも「(19年度から)国の補助金がなくなり、放棄地解消のハードルが上がった」と語る。

 「攻めの農政」のかけ声の裏で、ぜい弱化が進んだ生産基盤。農業を魅力ある産業にするには、地域の実情に細かく目配りした政策展開が欠かせない。