【衆院選鹿児島 論点を問う】行き当たりばったりのコロナ対策 収束へのロードマップは?

 2021/10/22 07:35
 鹿児島県内で新型コロナウイルス「第5波」が顕著になった8月初め、鹿児島市の男性(51)は喉に痛みを感じた。体がだるく、翌日に38度近い熱が出た。「まさかコロナにかかったのか」。感染経路に心当たりはなかったが、病院で検査を受け、陽性が判明。宿泊療養施設に入所した。

 軽かった症状は入所4日目に悪化した。せきが一度出ると止まらなくなり、息を深く吸い込めない。運ばれた病院で見たエックス線写真の肺は真っ白。中等症に進行していた。

 入院中は酸素吸入器を付け抗ウイルス薬を投与された。血中酸素量が危険値に下がったことを知らせる警報音が鳴ると「家族に会えないまま死ぬのか」と不安が頭をよぎった。

 衆院選の最大の争点となっているコロナ対策。これまでの政府の対応は「全て行き当たりばったりだった」と感じている。世論の反発で軌道修正したとはいえ、「病床が足りないからと、入院対象を重症者だけにした方針にはあきれた」と憤る。

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 政府は流行の波が来るたび、病床確保を要請してきた。だが、国の目安を参考に自治体が立てた病床確保計画は甘さが目立った。県内でも8月下旬、病床使用率は80%に迫り、増床に追われた。

 重症や中等症患者を受け入れた鹿児島大学病院。重症者用に確保した集中治療室のベッド5床は満床になった。垣花泰之救命救急センター長(62)は「ベッドはあっても看護師が不足し、簡単には増やせない」と話す。

 人工呼吸器などを使うスタッフは高度な技術や知識が求められる。「災害レベルの感染状況では、一つの病院でどうにかできる問題ではない。感染症に備えた人材をどう確保していくのか、長期的な視点で考える必要がある」と指摘する。

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 感染を防ぐため、行動が制約されるようになり1年半。収束が見通せず県民のいらだちも募る。

 霧島市の竹下佐知子さん(39)は、母親が1月に脳出血で倒れ、入院生活を送る。コロナ禍で見舞いは禁止され、手を握って声を掛けられたのはわずか数回。介護施設に入所する父親とは、もう1年以上直接会っていない。

 「マラソンでいえば今どの地点にいるんだろう。まだ序盤なのか、中盤まで来ているのか」。ゴールが見えないまま走り続けるのはつらいと漏らす。

 コロナを巡る状況は、ワクチン接種や治療薬の開発で、感染者や重症者を減らせるようになってきた。年内には自宅で服用できる「飲み薬」の実用化が見込まれる。

 鹿児島市立病院の坪内博仁院長(73)は「接種が進み、複数の飲み薬が普及すれば、インフルエンザのように共存可能な感染症になり得る」とみる。そうなれば感染者を隔離したり、限られた病院が患者を診たりする医療体制の局面も変わる。

 「そこに至るまで、どんなステップが必要で、いつ頃を目指すのか国はロードマップを示せていない」と坪内院長。科学的知見に基づき、収束までの道筋を大局的に描くのが政治の力だと指摘する。



 31日投開票の衆院選で争点になっている主要テーマについて、鹿児島県内の現状を探る。