頑丈、独創…景つくる役者 鹿児島 近現代の名建築を歩く 「一点物」風土に合わせ設計
2021/09/26 21:00
鹿児島の近現代建築①
■思い出詰まった独特のデザイン
「1960年代モダン建築の意匠が詰まっている」と専門家の評価が高い鹿児島県総合体育センター体育館(鹿児島市下荒田4丁目、写真➊)は、穴空きブロックの装飾が軽快な印象を与える。県産業会館などを手掛けた京都の内藤建築事務所が設計。海運業者、俣野健輔氏が1億1000万円を寄付し、60年に完成した。
ある町医者の記念館(さつま町求名、写真➋)には全国の建築ファンが注目。客船「ガンツウ」などで知られる建築家・堀部安嗣氏のデビュー作で、地元に慕われた前原則知(のりちか)医師を記念して95年に建てた。筒を輪切りにしたような白い建物が山里の緑に映え、医療器具が並ぶ室内は漆喰(しっくい)塗りの壁で明るい雰囲気だ。
肝付町の内之浦宇宙空間観測所には、東京大学教授だった池辺陽氏設計のロケット組立室などがある。敷地外の長坪集落にも68年、住民の保安退避所(写真➌)が造られた。宇宙人の集団のような外見で、中は広々。近くに住む長坪義見さん(86)が「みんなで退避所の窓から打ち上げを見守った」と教えてくれた。今は集会所として使われている。
■戦後復興支えた2人の建築家
公共機関や学校の建築が急がれた戦後の復興期、県内で活躍したのが岩下松雄(1898~1993年)と衞藤右三郎(1904~92年)。
岩下は戦前から県や鹿児島市の技術者として多くの公共施設を担当。旧県立図書館(現・県立博物館)には全国の技術者が視察に訪れ、県立第一高等女学校(現・鹿児島中央高校、写真➍)は35年の完成直後、昭和天皇が滞在した。「中庭にプールを設けて外部に生徒の水着姿を見せないようにするなど、気配りが細やか」と、ともに同校卒業生で教頭の山口悟さん(53)、森田忠和さん(50)。在学中は廊下をろうで磨き上げたと懐かしむ。
衞藤は終戦翌年、満州から妻の故郷・鹿児島へ引き揚げた。外光を調節する長いルーバー(日よけ)と大きなガラス窓が特徴。曽於市財部支所(写真➎)は北面の縦ルーバーが伸びやかな印象。
鹿児島市街地に残る鹿児島相互信用金庫本店(写真➏)は天井が高く、奥まで明るい光が届く。県内の仕事をこなす傍ら、国立国会図書館などのコンペにも参加。丹下健三らと賞を競った。事務所の後身、衞藤中山設計の中山高士社長(62)は「現場の技術者としての誇りがあった」とみる。
■「次代へ残して」専門家アピール
「近現代建造物はすべてが、風土に合わせて設計された一点物」。鹿児島大学大学院の鯵坂徹教授は、感性と技術が注ぎ込まれた建物の価値をアピールする。近代建築の巨匠ル・コルビュジエの作品が世界遺産となった一方、国内では多くの建物が耐震性や老朽化のため姿を消す。
文化庁は緊急重点調査を実施し、県内では2018、19年度に県体育館など32件の報告書がまとまった。学術組織ドコモモジャパンは鹿児島中央高、垂水市役所庁舎、内之浦宇宙空間観測所を残すべき建築として挙げる。鯵坂教授は「廃棄物削減のためにも長く使って」と話した。
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