長い年月かけ回復した森。次の課題は急増が予想される来島者〈未来への提言 奄美・沖縄世界自然遺産〉

 2021/07/31 08:00
オットンガエル
オットンガエル
 「奄美・沖縄」が世界自然遺産に登録された。大陸から切り離され、独自の進化を遂げた島々には固有種が多く生息し、「保全する上で重要な地域」と評価された。世界の宝をどう守るか。これまでの取り組みを検証し、未来への提言を探る。

 「ウォッ、ウォッ」。7月上旬の夜、大和村の村道沿いの渓流に、男性のうなり声に似た低音が響いた。大人の握り拳をはるかに超える巨大なオットンガエル。奄美大島と加計呂麻島にのみ生息する絶滅危惧種だ。

 案内してくれたマングース捕獲チーム「奄美マングースバスターズ」の山室一樹さん(60)は「この数年でカエルの繁殖地や個体数が目に見えて増えてきた」と実感を込める。

 外来種マングースの駆除が進んだことが大きな要因だ。1979年にハブ駆除のため、沖縄県から持ち込まれ、森に放たれたことで、カエルなどの希少動物が捕食された。2000年ごろは推定1万匹まで増えたが、この年に本格的に始まった捕獲が奏功し、根絶が近い。希少種の生息域も広がり、約30億円を投じた駆除事業はゴールが見えてきた。

■多様性の証し

 森そのものも回復している。奄美の森を代表する照葉樹イタジイは、本土復帰後しばらくは鉄道の枕木として、高度経済成長期は建築材として大量に伐採された。輸入材の台頭で1980年代をピークに林業が衰退すると伐採は減少。年間3000ミリの豊富な雨量と亜熱帯の気候が森をよみがえらせた。

 世界遺産を見据え、2017年には奄美群島国立公園が誕生した。開発や伐採が法律で制限され、保全への追い風にもなった。

 環境省レッドリストで絶滅の危険が極めて高いとされ、1990年代に推定100羽程度まで減ったオオトラツグミは生息数が著しく回復した。同省は数年後にはレッドリスト掲載基準から外すことを目指す。

 奄美市の希少植物研究家森田秀一さん(63)は18年、ラン科の新種アマミムヨウランを発見した。葉はなく、光合成をせず、キノコやカビなどの真菌を取り込んで成長する。「多様な生物が生息できる証し。調べれば、もっと新種が見つかる可能性がある」と語る。

■悪化への懸念

 底知れぬ森の魅力は、来島者が急増することで損なわれる恐れがある。この数年、「遺産の島」として注目を集め、希少な昆虫や植物の盗採が相次いでいる。

 野生生物の生息域の広がりで人気の観察スポットでは、アマミノクロウサギなどの交通事故が絶えない。今後さらに増えることも予想され、エリアによっては車両規制や人の立ち入り制限など実効性のある対策が必要だ。

 奄美大島エコツアーガイド連絡協議会の喜島浩介会長(70)は、大勢の人が森に入ることで、植物が踏み荒らされることを懸念する。「一度壊れた自然は簡単には取り戻せず、ちょっとしたことでも生態系に影響が出る」と指摘する。

 「われわれガイドも動植物を紹介するだけでなく、長い年月をかけて森が回復してきたことや、住民が自然を大切に守ってきたことを来島者に分かってもらう必要がある。ガイドの質も高めていかなければならない」と啓発への覚悟を語った。

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