生息域拡大で輪禍が増加 事故対策は沖縄が先行〈生きた化石の今 アマミノクロウサギと世界遺産③〉
2021/07/23 20:47
県道下に造られた動物専用の通り道=沖縄県竹富町の西表島(環境省西表野生生物保護センター提供)
奄美大島中部の金作原一帯でクロウサギが見られるようになったのはこの数年だ。専門家による1994年の調査では、主なすみかは島の中南部だった。環境省が2020年までに集めたデータによると、中部と北部でも生息域が広がった。
■過去最多66件
要因に、クロウサギを捕食する外来種・マングースが根絶目前まで駆除が進んだこと、山林開発の減少、17年の国立公園指定に伴う伐採の制限で森が回復していることがある。
生息域の広がりは輪禍の増加という新たな課題を突き付けた。奄美大島、徳之島で20年に起きたクロウサギの交通事故死は66件で過去最多を更新した。今年5月末時点は計27件で、対策が急務だ。
環境省は毎年、観光客が増える夏場や繁殖期に入る秋に、チラシを配って安全運転を呼び掛けている。自治体と連携して事故件数を知らせる啓発看板も設置しているが、効果は数字に表れていない。
奄美大島中部の三太郎峠(奄美市住用)では、夜間観察で車の通行が増え、交通事故が頻繁に起きている。9月末にも始める夜間車両規制に向け、環境省や市のルールづくりが進む。5月の大型連休に、事前予約した車のみ通れる実験をしたが約3割は予約なしで通行。規制の難しさが浮き彫りになった。
■沖縄県に後れ
同じ世界自然遺産候補地の沖縄県は、事故防止へのハード整備に20年以上前から取り組み、啓発活動が中心の奄美の先を行く。
国の特別天然記念物イリオモテヤマネコがすむ西表島(沖縄県竹富町)。県は1995年からアンダーパスと呼ばれる動物専用のトンネルを県道下に順次整備し、動物が路上に出没しないようにした。計123基あるトンネルは、モニタリング調査でイリオモテヤマネコが実際に通り道として使う様子が確認されている。
沖縄本島北部では希少種で飛べない鳥、ヤンバルクイナの事故を防ごうとフェンスやトンネルを国道事務所が設置している。
野生動物の交通事故を研究する帯広畜産大学の浅利裕伸准教授(43)は、ハード面の対策はもちろん、住民へのタイムリーな情報発信が必要と指摘する。「スピードを出すなと漠然と伝えるだけでは事故は減らない。事故情報をコミュニティーFMで頻繁に流すなど効果的な周知方法や対策を考える段階にきている」と話す。
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