倦怠感、体温は上がったり下がったり、滝のような汗が出る。「コロナ陽性です」に恐怖が駆け巡った。涙が出た。息子をどうしよう…

 2020/10/20 17:00
女性は「自分の経験が他の人の役に立つのなら」と取材を引き受けた=与論町
女性は「自分の経験が他の人の役に立つのなら」と取材を引き受けた=与論町
〈コロナの爪痕 与論の元感染者に聞く①〉

 7月21日以降、与論町内で55人の感染が確認された新型コロナウイルスのクラスター(感染者集団)。約3カ月を経て、島の人々は静かな暮らしを取り戻しつつある。だが、感染を体験した女性(33)は「今も恐怖は消えない」と言う。新型コロナが自身の心身に及ぼした影響を詳細に語った。

 7月22日午後7時10分。全身から滝のような汗が出る中、町内の病院からスマートフォンに着信が入った。「検査結果は陽性です。入院について考えてください」

 頭の中を恐怖が駆け巡り混乱した。2人で暮らす息子はどうなるのか、職場に何と言えばいいのか-。電話越しに聞こえるおびただしい着信音と会話から、他にも多くの感染者がいると察した。

 しばらくして保健師から電話があった。行動歴の聞き取りが始まる。「どこに行き、誰に会いましたか」。ショックもあり、記憶が不確かだった。スマホに残っていた電子マネーや通話履歴が役に立った。聞き取りの中で思い出す。

 「異変を感じたのは昨日からだ」

■強い腰の痛み
 感染発覚前日の21日、職場で2、3回「コホン、コホン」と軽いせきが出た。普段なら気にも留めないが、島外ではコロナ感染者が発生している。周囲が気になり、音が響かないようマスクの上から口を押さえた。

 その夜は来島していた友人らと会食を予定していた。せき以外に違和感もなかったため参加した。途中から強い眠気に襲われたが、疲れているなと感じた程度だった。知人からは無料通信アプリ「LINE(ライン)」に「島で初めての感染者が出たらしい」と連絡が入っていた。

 22日未明、強い腰の痛みで目が覚めた。ろくに眠れないまま、ラジオ体操の当番のためマスクを着用して会場へ。体が重く感じるが「寝不足のせいだ」と言い聞かせた。

 職場は島内初の感染者の話題で持ちきりだった。腰と下腹部の鈍痛が止まらない。悪寒もあり、昼休みに体温を測ると37.5度。

 「まさか」-。不安が一気に膨らんだ。

■息子と寝られず
 町は、島内で初めて20代女性が感染したと公表した。人づてに顔見知りの女性と知った。息子が通う学童保育が休園となったため、仕事を早退し一緒に帰宅した。
 それから急激に体調が悪化した。テレビのリモコンを手に取るのも面倒に感じるほどの倦怠(けんたい)感が体を襲った。体は高熱でほてる感覚なのに、体温は平熱から38度台まで上下を繰り返す。「新型コロナかも」。覚悟を決め、午後4時40分に保健所へ連絡して、抗原検査を受けた。

 「コロナだったけど、母ちゃんは大丈夫だよ」。

 その夜、感染を告げると、息子は驚きと悲しみの表情を見せて「コロナを許さない、絶対に倒してあげる」と励ましてくれた。

 長い1日を終え眠りにつく。翌23日には息子が検査を受ける。保健所からの指示でいつもは一緒に寝る息子と離れて寝なければならない。寝相が悪く、何度もベッドから落ちる息子に触れることもできない。もどかしさで涙があふれた。
(2020年10月20日付)

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